110 団子の木の汁

 むかしむかし、秋田の佐竹侯が夏まけでとってもひどい目あった。ほして医者さかかって、「何薬ええがんべ」て言うたれば、首かしげっだけぁ、
「これはオベベの(つゆ)でないど駄目だなぁ」
 て言うけ。ほして、城中では、若い美女みな集めて、ほして、オベベの汁とらんなねべなぁていうわけで、十五才から三十才までのうら若い女みな集めて、ほしてその汁取った。ほして一斗樽さ、はいつ集めて、毒味役がはいつ呑んでみんべと思ったら、いや、こりゃとてもじゃなくて、くさくてくさくて、呑まんね。
「こだなもの、殿さまさ呑ませたら、かえって病気悪くなんべ」
 と、こういうわけで、医者に、いまいっぺん聞いてみた。
「竹庵どの、竹庵どの、オベベの汁、これだけ集めたげんども、何だか呑めそうもない」
 見っだけぁ、医者、
「かいつは何の汁もってきたんだ。おれ言うたオベベの汁て言うのは、団子の木の傷ついたどっからにじみ出る、あの赤い汁のことだ。この辺ではアカメなていうていっけんども、あいつ、煮て食べる人もいる。そいつが一番夏まけに効くのだ」
 て()っで、ほして取り直ししたけど。どんぴんからりん、すっからりん。
>>蛤姫(下) 目次へ