106 カイモチ

 むかしむかし、あるとき、泥棒がどこさ入ったらええがんべと思って、ほっちこっちさ行ったげんども、どこの家もサンかかって入らんね。ほしてずうっと村はずれの方さ行ったれば一軒だけサンかかっていない家あった。よしというわけでそこさ入って行った。入って行って、まず、〈もの盗んには、家の人ば動かんねぐして〉というわけで、まず親父とかかの、(せん)にはみなチョンマゲ結ったもんだから、男衆も女衆も髪長かった。ほしてはいつば、元結いできちっと結ってけだ。こんどは女中。女中寝っだどこさ、カイモチ、女中の尻の方さ、ほこさいっぱい置いで呉だ。ほうしたけぁ、ガタンゴトン、ガタンゴトンて言うので、
「ありゃ、盗人だ」ていうので、起きんべと思ったら、
「痛たたた、誰だ、かか、人の髪ひっぱって」
「髪引張ったなて、おれも引張らっでた、なんだ、ほんでは()わっでいたなっだな。ほんでは、女中ば起こせ」て言うわけで、
「こりゃこりゃ、(あね)、早く起きろ、まず、泥棒入った」
「んだて、おら、むぐってはぁ、起きらんねもんだっすはぁ」
 て言うたったて。んだから、女中として、カイモチいっぱい入れらっだな、うしろの方さ入れらっだ。うんだから夜のうちむぐしたもんだと思って、早合点した。んだから、決して戸締りしねで寝るもんでないて、昔の人ぁ言うたもんだど。どんぴんからりん、すっからりん。
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