101 桑原桑原

 むかしむかし、あるどこで、春先のうららかな日、ほっち眺め、こっち眺めしった雷さま、あんまり気分ええもんだから、はっと思ったとき、足(すべ)らかして、落っできた。ほしてある家の井戸さ落っでしまった。上がんべと思ったげんど、ほれ、太鼓は背負ってる。風出す風の袋は背負ってる。雨降らせるジョロは背負ってる。ほら、臍抜いだななの、(べろ)抜いだななの背負っているもんだから、なえったて上がらんね。ししゃますしったどこさ、ほこの旦那がきて、
「なんだ、ほこさ落っだな、雷さまでないか」
「ほだ、何とか助けてけらっしゃいまず」
 ほして、ほんではというわけで、上げんべと思ったげんど、なかなか上げらんね、隣近所みな寄せて、ほして一族郎党呼ばってきて、ほして太鼓上げて()だり、風の袋上げてけだりして、やっとあげた。ほしたら雷さま、
「いやいや、御世話になった、あなた一族郎党の苗字は何ていうなだ」
 て聞いた。「おらだ一族は、〈桑原〉て言うなだ」
「ああ、ほうがっす。忘せねがら、若しおれがほっちこっちでやかましくなった時、〈桑原、桑原〉て言うてさえもらうじど、ほこさ来ねがら」
 ていうて、天さのぼって行った。んだから、雷さま鳴っど、桑原桑原て言うて、カヤの中さ入ったり、線香立てたりして、〈桑原桑原〉て言うど、雷さま(とか)くさ行ぐって言うたもんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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