140 蘭学の名医

 むかしむかし、あるところに若い夫婦いだんだけど。ところがその奥さんの方が体悪くて医者さ行った。ほこは今をときめく蘭学の医者、すばらしい名医だった。ところが誰言うとなく、
「お前の奥さんが医者さまにさっでいたかも知んね」
 と、こういう風に言うて聞かせた人いた。はいつ聞いた旦那さま、カンカンにごしゃえで、
「よし、ほんでは明日、おれ行ってみる」
 て言うわけで、奥さんつれ添って行った。ところが医者さっぱりあわてね。
「ははぁ、お前のな、奥さんが悪いとこ、子宮ていうとこがわるいんだ。んで、そこさ薬つけるには、何よりも道陸神さま一番ええ。ほんでおれ薬つけっだんだげんど、旦那さまさええどこさ来た。あなたつけてけらっしゃい」
 こうなった。
「先生、なんぼ頑張ったって、先生の前でおれの立たね」
「ああ、そりゃ困ったな。んではおれ商売だから、おれつけて上げっから、深すぎてもなんね、浅すぎてもなんね、墨水でしるしつけっから、お前見てて、深い時は深い、浅いときは浅いて言うてけらっしゃい」
「はい」
「ええか、ほんではつけっから」
 て、先さウドン粉つけてニョロと入っでやった。そしたら、
「あっ、先生さま、深い深い」「ああそうか」「あっ、浅い浅い、深い深い」
 ほだいしてるうち、先生は辿りついてしまった。どんぴんからりん、すっからりん。
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