127 油断医者

 むかしむかし、あるところに医者さまいだっけど。ほの医者さま、何見てもらいに行っても、「手遅れだ、手遅れだ」て言う。ほだい手遅れなったのも治すていうどこで、すばらしく人気が出たんだけど。
 ある時、柿の木から落ちて怪我(けが)したなば、診断書に「痰(たん)」て書いた。
「先生、柿の木から落ちて、痰ざぁ話あんまいなっす」
 て言うた。
「いや、立派な痰だ」
「何という痰だっす」
「いや、油断という痰だ」
「はぁ、ほうがっす」
 ほしてその痰の診断書で納得した。こんどのかえり、行ってもらったれば、扁桃腺だ。「ええか、扁桃腺つぁ大事にさんなねぞ」て言うた。見てもらった人、
「扁桃腺ぐらい、こっじぇげだな、大したことないべな」
 稼いっだうち、また熱ガンガン出て、ひどくなった。こんどはその先生さ行って、また見てもらった。ほしたらば先生は、
「いやいや、今度は肺炎だ。なぜなるか分んね」
 ほうしたれば、そこの家の人、ごしゃえた。
「なんだ、先生。この間扁桃腺なて言うけぁ、肺炎だなて、ほだな話ざぁあんまいな」
 ほうしたれば、泰然として、先生曰く、
「扁桃腺をむなしうするなかれ、とき肺炎なきにしもあらず。肺炎だった、手おくれだ」
「先生に見てもらってで、手おくれざぁあんまいな」
「よし、今から治してやる」
 て言うわけで、熱さましにミミズ飲ませた。ところがたちまち熱さがって治った。ところが、あるところで、工事現場でひっぽろぎ落っで逝くなった。医者の診断書持って行がねど、除籍もさんねし、届けらんねもんだから、先生に行った。
「先生、こういうわけで落っだけど」
 て言うたらば、
「ああ、そいつぁ手遅れだ」
「手おくれって、先生、なぜして連(せ)て来っどええがった」
「落ちねうち連(せ)て来っど、ええがった」
 て言うたど。どんぴんからりん、すっからりん。
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