126 黒焼き医者

 むかしむかし、ある村に医者さまいだんだけど。ところがその先生の薬は何でも黒焼き。性病にはアケビの黒焼き、胃病には茄子の黒焼き、ほら腎臓病には西瓜の黒焼き、癇(かん)の薬は孫子郎虫の黒焼き。
 ところが、人間でも、みんな異性にもてるとは限らね。男だって醜男がいれば女だてあんまり見よくない女もいる。ところがそういう人が惚れられる薬があった。それは恋薬と称してイモホリ(いもり)の黒焼きであった。そのイモホリの黒焼きこんがりと焼いて、ほこらをふり廻したり、持って歩くど、たちまち二・三人の異性が追いかけて来る。こういう風なわけで、そこの黒焼きはむやみに流行(はや)った。少し男ぶり女ぶり悪くとも…。
 ところが、その先生曰く、
「いや、色なの少々黒いったて、大丈夫だ」
「なしてだっす」
「色黒くて、おかた持たんねなて言うたらば、カラスは一生後家でいんなねべな。ほだごとないわけだ」
 て、こういうわけですばらしいく売っだ。ところがどういうもんだか、そこの先生の家、火事になってしまった。そして世間の人みんなその医者ば馬鹿にした。
「先生、先生、家の黒焼きざぁ、何の薬なもんだ」
 先生泰然として、
「お前だよく聞け。家の黒焼きは大工・左官の腹薬、世間社会の気付け薬て言うんだ」
 て言うたけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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