122 死神

 むかしとんとんあったずま。
 ある人が夜道をずうっと歩いて来たれば、向うから白いもの着ったな、ソワソワ、ソワソワと来た。「ああ、気味(きみ)悪(わ)れ」と思った。「こんな夜(よ)更(ふ)けてお前一体誰だ」て言うたらば、
「いや、あれは死神だ」「いやいや、お前さ金もうけ教える」
「何、金もうけ、金もうけと聞いて黙っていらんね。なぜすっどええのだ」
「うん、おれは死神だから、その人さ見えねようにお前にだけ見えるように病人の頭の方に居っどその人助かる。病人の尻の方さ行ぐど、その病人は死ぬのだ。んだからお前明日から医者になれ、ほして呪文さえとなえっどええ。一ぺんで治る」
「呪文ざぁ、なぜ呪えるもんだ」
「ええか、おれ今から言うから憶えておけ。間違って駄目だぞ。アヤラカモクレンカンキョウチョウ、テケレッツのパァて言わなくてはなんね。いま一ぺん、アヤラカモクレンカンキョウチョウ、テケレッツのパァ」
「はいはい、憶えた」
 て言ううちに、今度、どこそこの坊ちゃんが悪れぐなった。ほしてほこさ医者なもんだから、頼まっで行ってみたれば、何だか尻の方さ坐ってだ。死神が…。
はぁ、これぁ生きね。生きねんでは銭一文も貰わんねし、おらえの父ちゃんば生かすと銭、千両呉(け)るて、まずほこの奥さんに言わっだ。
「千両て言えば一生暮すだけの金だ。何とかうまく工夫ないべか」
 て、その男は考えた。ほんで家の人さ頼んだ。
「枕と足の方と、四人して、一・二の三で位置変えてもらうと治る」
 そして死神ぼやっとしった時に、
「一・二の三、アヤラカモクレンカンキョウチョウ、テケレッツのパァ」
 て言うてしまった。ほうしたればそこのおっつぁんが今にも死ぬような格好しったけぁ、ウウッなて起き上って、
「気分ええ、明日からでも稼がんなね、こりゃ」
 なて言うようになった。ほして千両もらって帰って来っど思ったれば、死神に追っかけらっだ。
「こりゃこりゃ、待て。何だ、おれとの取り決めしたことと別なことしてしまったな。そのことでおれは死神協会の方からいじめらっだ。お前死刑だ。んないごんだらば、その規約破った奴を殺さなければならない。こういう風に言っで来た、お前、なぜする」
「銭は一生食うほどもらった。んだげんど死んでしまっては何とも仕様ない」
「んでは、おれさ追かけて来い」
 て言うわけで、その死神さずうっと追っかけて行って狭いどこ行って、土の中の方さ行ってみたれば、いっぱいとローソクがとぼっていだっけ。
「ほりゃ、人間の寿命ていうのは、このローソクだ。このローソクだ。このローソクが燃えつきたときに、この人の寿命ていうのないなだ。お前の寿命はこう長いなだったげんども、あん時、テケレッツのパァやったときから、こだい短くなった」
「いやいや、こりゃ、いまつうとで燃え尽きっどおれぁ死なんなねなか、何とか神さま、ええ方法ないか」
「いや、おれの長いのあっから、半分、お前さ呉っから、これから決してこういうことやらねが」
「はいはい」
「んではこのローソク、お前のさ継げ。継ぎ方悪くて消えっどおしまいだぞ」
 ほうしてそいつ継ぐべど思って、継ぎはだたら、一じんの風が来たけぁ、ファッ。「あら消えた」
 どんぴんからりん、すっからりん。
(遊女狐239)
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