119 闇夜ふみ

 むかしむかし、この辺で「闇夜ふみ」ていうことが流行ったど。その「闇夜ふみ」というのは、まっくらな晩に、さし網持って行って、宮川さ行って、ジャポンと網かけては、ジャボジャボと踏んで、雑魚かかる。かかったものはガンバツであろうとニワゴであろうと、カジカであろうと、何でも捕(せ)めて来て、暗いどこで煮て食う。そうして「闇夜ふみ」て、若衆だ、そういうこと、まず、退屈すっど始めたわけだ。
 て、当番がいて、家さ味噌とりに来(く)んなねがった。その時、部落の竹蔵という人が味噌にぎって鍋の蓋さ上げて持ってきた。ところが真暗やみなもんだから、いまつうとというところで、され転んだ。味噌どっちゃが吹とんでしまった。
「かぁ、こっから家まで行ぐに嫌(や)んだし、こりゃ、一つ手さぐりしてみっか」
 ていうわけで、手さぐりしてみたれば、丁度傍にあっけど。
「ああ、こだんどこに居たも、こりゃ」
 ていうわけで、はいつ入っで煮て食ったれば、さっぱり塩っぱくなくて、何だかおかしげ、こん臭(くさ)いけど。次の日見たれば、味噌などとんでもないどさ吹っとんでいて、なんだか犬の糞(かいす)で煮て食ったけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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