110 カスベの由来むかしむかし、あるところに殿さまいだんだけど。この殿さまが内陸の方なもんだから、魚ていうな、あんまりくわしくなかった。ところがそこさすばらしい魚がお買上げになって上がって来た。四角なような菱形のような、何だか不格好だ。して、誰に聞いても名前分んね。分んねなて言うていらんね。んで、殿さまが、 「この魚の名前を言い当てた者には、金五両つかわす」 こういう風な触れを出した。また立札を建てた。ところが物識りのある人が行って、 「ははぁ、これはカスベという魚である」 ほうすっど、 「あっぱれなるぞ、見ただけでカスベて当てるな、大したもんだ」 て、金五両もらって下がって行った。して不気味なもんだから、してるうちに春先なもんで、また十日も経(もよ)ったればカンカンと干物になってしまった。そして奉行所も殿さまもいじわるだ。また元の名前つけた奴をまた招ばっで、名前付けらせた。 「おかしなこというたら、やっつけて呉んべ」 と思って奉行所でも分んねがったこの魚の名前を言い当てらっだから、何とかして仇(かたき)討(と)ってけんなねていう気もあるもんだから、殿さまの使いやって呼び寄せた。ところがそいつ見っだけぁ、 「どうだ、この魚は何と申すか」 「はい、これはカラカイにございます」 「なに、無礼者、先だってカスベと言うたにもかかわらず、十日も経(た)たないうちに、カラカイとはどういう訳だ。人をからかうにも程がある」 縄かけらっで、そして牢屋にぶち込まっだ。獄門磔だ。そういうわけで牢屋さ入れらっだ。ところが、 「どうだ。何か言い残すことはないか、のぞむことはないか」 「いや別にこの世の中さのぞみも何もないげんども、どうか家族に一目だけ会わせてもらいたい」 「ほうか、よし」 ていうわけで、家族が呼び寄せられた。で、牢の中で引き出された。やせ衰えて髭ぼうぼう、頬もげっそりとやせて、家族の人さ、 「ええか、お前だ、今度から決してイカの干したのをスルメていうてはなんね。おれがカスベの干したのをカラカイて言うて、獄門磔になんなだから、決して、生涯通じてイカの干したのをスルメて言うてはいけないぞ」 て言うた。ところがはいつ聞いっだ奉行所の役人は、 「はぁ、生の魚と干した魚は名前がちがうんだな」 ていうて、無罪放免だった。どんぴんからりん、すっからりん。 |
(「動物起源」系) |
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