107 東山の馬鹿聟 ― 運のええ馬鹿聟 ―

 むかしとんとんあったずま。
 東山の馬鹿聟ぁ家さ泊り来た。家では、
「去年がら家でも馬飼って、馬、子生まっだから、子、家さ置いて、大きなお前の家さ呉でやっから、連(せ)て行って使うんだ」
 て、ほういうわけで、馬大きなもらったんだど。
 ところが、ほの馬鹿聟、〈隣の馬鹿聟は、馬ば財布さ入れるて逃がした話〉聞いてたから、
「おれは、ほだな馬鹿な目みてらんね」
 こういうわけで、タテゴをきりっと編んで馬さ結(ゆ)つけだ。引張って行くべと思ったら、その馬、子と離されるもんだから、やんだから、ずごねで、はねこづけるやら、何とも引張って行ぎぱぐった。ほんではうまくない、のって呉っかて言うわけで、馬さのったんだど。ほうしたれば、あばって登り降り走る。ほの恐っかなくなってはぁ、馬鹿聟は泣いだんだどはぁ。アンアン、アンアンて。ほうしたれば、その村の人ぁ見っだけぁ、
「あの聟は大したもんだ。あだいあばれ馬さのって、鼻唄機嫌でのって歩く」
 て、泣いっだて分んねくて、鼻唄機嫌だと思っていだんだど。ほうして歯ぎしりしてのっていたのば、
「笑ってのって歩く、ありゃ」
 なて見っだんだど。
 ほだいしているうちはぁ、川は叩き落さっだんだどはぁ。ざんぶり川さ落さっだし、何とも仕様ないから、ほだいして見てるうち、材木流っで来たから、いきなりはいつさ、手ぐついた。ほしてようやく岸さ材木と共に上がったれば、材木だと思ったれば、はいつぁ水増しどんどん出て、ゴミ背負ったウナギだけど。ほうしてすばらしい大きいウナギせめて来たべし、馬、こんど落付いて引張って行ったべしすっど、
「いや、兄(あ)んつぁ、大したもんだなぁ、何だて思ったげんど、おらえの聟は大したもんだ」
 ほして、そのウナギ汁みんなして食った。うまいもんだから、聟どのはいっぱい食った。ほしたれば、夜中に腹苦しくなって、食い過ぎだもんだから、便所さ起きた。ほうしたれば、ほこんどこさすばらしい弓と矢あっけ。
「はぁ、弓と矢ざぁ、こだなものか、一ついたずらしてみっか」
 て、さわってるうちはぁ、ヒューッと弓の矢行ってしまった。ほうしたけぁ、何だかガサモサ、ガサモサて音する。いや、恐っかないから、まずはぁ、あっちこっち用達して寝た。ところが次の日なって見たれば、ほの聟の家さ泥棒入ってきて、大きい風呂敷さ銭だの何だのて、ええものみな背負って行くどこ、弓の矢で打だって、ほれ、磔(はりつけ)みたいさっで、動かんねくていだんだど。
「誰だこりゃ、ゆんべな、こうしたけな」
「いや、はいつぁ、おれだった」
 て、聟言うたけぁ、
「いやぁ、えらい聟どのだ。大したもんだ」
 て、ほしてほの次の晩、またほれ、
「ほんではまず、お祝いごとだ」
 なて、酒は飲ませられんべし、またいっぱい御馳走なった。したら夜中にまた本当でない。ほしてまた起きたれば、いきなりつまずいたものがある。何だかおかしいなぁと思った。ほしてまた、こそっと寝た。ところがそこさすばらしい大きい熊、狩人に打だっで手負いの熊になって、ほっつこっつ歩いて来たげんども結局ほこまで来て体力つきて、ほこさ、のめってだんだけど。はいつ、
「この熊、何したんだ、こりゃ。誰だ」
「はいつもおれだ」
 て、聟言うたんだど。ほうしたれば、
「いやいや、聟どの、大したもんだ」
 て、熊汁村中さ呉で、そして自分も食った。また食い過ぎた。こんどは便所まで行かんねぐなってはぁ、まずい話だげんども囲炉裡さやらかしてしまった。ほして灰かけて知(し)しゃねふりしったところが、次の朝げ起きて、火焚くべと思ったれば、何か黄色いものある。
「誰だ。これ囲炉裡さ、こだな黄色いものしたな」
 て言うたれば、ほれ、聟にばり「おれだ、おれだ」て、ええごとさっだもんだから、ほこさ居た奉公人若衆ぁ、
「はいつ、おれだ」
 て言うた。何だかも知しゃねで。
「この野郎、ほに、おえねえ野郎だ。にさ、猫にもされ劣る」
 て、さんざん、若衆ばりごしゃがっで、聟は何ともなかったど。こいつぁ、とんまのわりに運のええ聟だったど。どんぴんからりん、すっからりん。
(「愚か聟」系)
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