106 東山の馬鹿聟 ― 銭・馬・土瓶 ―

 むかしとんとんあったんだけど。
 東山の馬鹿聟は、初正月になったもんだから、
「どうだ、兄(あ)んつぁ、お前の家でも金ふだだげんど、銭でも持って行って使うんだ」
 ていうわけで、銭いっぱいよこしたんだど。ほうしたれば途中まで来たれば、キジいだんだっけど。
「はぁ、そこへキジいた。ようし、こん畜生」
 ていうわけで、もらった銭バラバラ、キジさ投(ぶ)っつけてしまった。キジはぶったまげて飛んで行った。一匹も捕(せ)めないで銭はなくなった。ほして、
「何かよこさねがったがよ、兄(あ)んにゃ」
 て聞いだらば、
「うん、銭コ、このぐらいよこしたけ、げんど、キジいたけがら、キジさバラバラぶち撒(ま)いてしまった」
「何だず、ほだごんでは、なるもんでないっだず」て。
「銭もらったら、ちゃんと財布さ入っで、そして懐さ入っで来(こ)んなねっだな」
 また一年過ぎて、次の年になって、
「おらえで馬コ生(ん)まっだから、お前さ馬コ呉でやっから」
 て、馬呉でよこした。一生けんめい財布さ入れっど思ったげんど、みな入らね。ほだいしているうちに逃げらっだ。
「何か呉てよこさねがったが」て聞いだば、
「うん、馬コもらったげんども財布さ入れんべと思ったげんど、財布さなかなか入らね。ほだいしているうち、あん畜生、逃げあがったまなぁ」
「なんだ、ほだな話ざぁないっだなぁ、馬だらば、手綱つけで、はいどーどーて引張って来んなね。分ったか」
「分(わ)かった、分かった。こんどぁ引張ってくる、逃がさね」
 話は早いもんで、また三年目の正月になったんだどはぁ、したれば、
「お前では、あんまりええ土瓶使っていねっけがら、おらえに土瓶いっぱいあっから、まず、お前家さ呉てやっから、持って行げ」
 て、ええ土瓶もらったんだど。
「よっ、こん畜生、こんどぁ逃がさねぞ」
 て言うけぁ、土瓶のツルさ綱つけて、はいよー、はいよーどうどうて引張ってきた。町の中の人ぁ、何だべと思って、みんなはいつ見っだ。ほして家さ来たればはぁ、底抜けて、その土瓶も使わんねがったどはぁ。んだから馬鹿ざぁ、何でも教え申したてらんねがったど。どんぴんからりん、すっからりん。
(一つ覚え330)
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