102 三尺安兵衛

 むかしとんとんあったずま。
 上山藩に三尺安兵衛て言うな、とても胆のふとい武芸者いだんだけど。背は三尺そこそこ、そして二尺五寸の刀さして、刀の尻さ車コつけで、カラカラ、カラカラて江戸の町歩ぐがったど。ほして腕自慢なもんだから、夜な夜な出て行っては辻切りした。唄うたいながら、おつかいに行って来た女の子どもなの、ふぇって言うど、その唄続けて何だかシューッていうたような気して、ほしてその唄うたって家さ行ぐ。「ただいま」て言うど、首がコロンと落ち落ちしたど。そのぐらい切り方も名人だった。ほして草履ポーンと上さ蹴り上げて、エッというど、下さ落っだ草履が八つ裂きになっていっかった。ほして鞘さおさめる。その刀見えねがった。そのぐらい早いがった。
 ところがあるとき、向うから酒酔っぱらいみたいなフラリフラリて来た。この節、世智がらい世の中に、酒酔っぱらって、こだいしている奴だら、ぶった切って呉(け)んべと思って、ほの三尺安兵衛が得意の居合抜きでもって、えっと切りつけた。ところが、ひらりと体が代った。
「おい、小僧!」
 小僧呼ばわりさっだ。かっかと来た三尺安兵衛、試合をいどんだ。
「どうだ、おれと試合をすっか」
「まあ、所望されれば武士としてやむを得ない。夜な夜な出て辻切りするのは貴様か、けしからん、おれが成敗してくれる」
「なにを小癪な、返り討ちだ。おれの居合抜き受けてみろ」
 こういうわけで、ここで二人は啖呵の切り合いして、二三合切り合った。
「えっ」
 て、お互いに刀抜いた。あるいはチャリンていうわけで、鞘さおさめた。ほんどき、三尺安兵衛は勝ったつもりしった。
「おい、おれに、お前何か所切らっだか分っか」
「何か所切らっだかな、お前の袴八か所切っでるはずだ」
「ほう、そうか、おぬしの袴見てみろ、八針おれに縫わっでる」
 見たれば袴八か所縫わっでだけど。ほれから三尺安兵衛は江戸にはおれ以上の人がなんぼもいるんだ。こりゃたまらないと思ってはぁ、辻切りもしねがったし、腕自慢もしねがった。ほれから、非常に堅く暮した。こういうとんとんむかしでございます。どんぴんからりん、すっからりん。
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