101 大根むかしむかしとんとんあったんだけど。ある村で、来る日も来る日も雨降らねで、どこの家でも大根、白菜、なんだて野菜もの蒔いたげんど、ほとんど出ね。 「困ったこと始まったこりゃ。大根餓死だ。今年ぁ野菜も餓死だ」 ほだいしているうちに、与助さんの家さだけ大根一本出たんだど。 「はぁ、ほんでは仕方ない、みんなして村中して、はいつさ肥料(こやし)かけんべはぁ」 て言うわけで、先(せん)にみないろいろな馬糞とか人の下肥(しもごえ)とか、そういうもの、村中もって行って、はいっちゃ肥料(こやし)かけだんだど。ほうしたればおがるおがる、おがってしまってはぁ、楢下のいちようの木みたいに太っとぐなってしまったんだどはぁ。 「はぁ、このあんばいでは、村中食っても大丈夫だ」 いよいよ大根引きの季節になったもんだから、村中して、はいつさハシ綱かけて、毎年村中で出て綱打ちする。太い綱さし渡し十糎(せんち)もあるような、藁で三本よりこにして、ワイショワイショて、みなして組単位で綱打ちした。その綱で大根さ引っかけて、ワッショワッショて、はいつば引っこ抜いた。ほして車なてないもんだから、土ゾリさつけて、引張ってきた。ところがほんどきは秋でいま少しで雪降るていうときだから、山陰で雪おろし様鳴った。雷がゴロゴロ、ドドッてすばらしい音立てた。したればほの大根がメクメク、メクメクて泣いだんだど。 「大根どの、大根どの、なして泣いっだ」 「今んな、大根おろし様でないか」 「いやいや、大根おろしでない、雪おろし様だ」 「ああ、ほんでええがった。ほの音、大根おろし様だと思って、おれぁぶっ魂消た」 大根だから、ほれ、おろされっかと思ってぶっ魂消た。 「ほんでは、口なの立つ大根では、まず、食(か)んないべど、こりゃ、んでは村の広場さ置くべはぁ」 て、村の広場さ、はいつば置いっだんだど。ほして冬になっど、その大根のため吹雪など、そこさ止まって来ね。夏さなっど、日蔭さ涼むのに、きわめて便利ええ。んだげんどもその大根が大飯食いで、相当肥料(こやし)してけねど、どうもおかしげになる。ほんでみんなして、やっぱり肥料して、秋、台風なの来っど、部落ささっぱり台風も来ねがったんだど。んだげんども、なんだが食ねで肥料すんな無駄だような気して、ほしてみんなして大根さ言うたんだど。 「大根どの、大根どの、おまえ稼ぎもすねで寝てばりいて、毎年大きくなったて何にもなんね、んねが。この村から行って呉ろはぁ」 て言うたんだど。したれば大根がにがい顔しったけぁ、みんなに追出さっだんだし、すごすごと、どこかさ姿消したんだどはぁ。ほうしたればその年から嵐は来る、吹雪は来る、日蔭にならねはぁ。で、大変みんなひどい目に会ったんだど。 「んでは、あの大根、どこかに居ねべかはぁ」 て探したり何かえしても、ほの大根いねんだけどはぁ。ほしてみんな考えてみたれば、その大根に一枚の葉もないがったんだど。みんな「ハナシ」だていうてはいつは本当の葉無しだったんだど。どんぴんからりん、すっからりん。 |
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