100 名前の由来むかし

 いろいろなものに名前がついてる。名前の由来。
 たとえば、「うなぎ」。
 あれはむかし、「ニョロ」て言うたもんだ。ニョロニョロているもんだから、みんなあいつぁニョロ、大ニョロ、小ニョロ。
 ところがある時、鵜飼の人が鵜がもぐって行って鮎と間違えてニョロなるもの捕(せ)めて来た。ところが口端さからまるやら、はね廻るやら、何とも仕様ない。鵜が非常に難儀した。
「あらら、鵜、難儀しったやら、鵜が難儀だ、大した難儀だ」
 ているうちに、何時の小間(こま)い、うなぎになってしまった。
 ところが鵜がノドさ入れてやった奴をゲロゲロと出す。人間が歯みがいたり、何かしてノドさ入っで出すことを「ウガイ」という。そういう風にして名前ていうな、いろいろ辿ってみっど面白いのがいっぱいある。
 ヤカンなの、あれはむかし「ブンマゲ」と称した。上の方、ああいう風にすっかり輪っかになっていねで、ブン曲げて、ただ鍵さかけるようにしておいた。誰言うとなくブンマゲ、ブンマゲで通っていだんだが、源平の戦さのとき、侍の大将、えらい人だ、ヨロイカブト着ったげんども、雑兵は、これはヨロイカブトなて、着るわけに行かない。それでもその頃は弓で緒戦は弓の矢で戦闘の優劣はきまったていうぐらい弓が重要な時代であった。その弓が雑兵の頭腕、どここことなく貫いて、それで生命落す者が多かった。
 んで、一人がそいつかぶったところが、このままでは、キビチョ口(ぐち)邪魔なもんだから、キビチョ口(ぐち)なくしてて言うわけで、くるっと拵えて見た。ところがこんどガンガンして命令が聞えね。こんでは駄目だていうわけで、キビチョ口(ぐち)二つつけてみた、右と左さ。んだど、大変具合ええぐ聞こえた。ところが夜寝っどき、邪魔になって寝返りさんね。こんでは駄目だていうので、一つに残してしまった。したれば命令もええあんばいに聞える。夜寝てもくらりくらりと寝返りしても何ともない。こんどブンマゲではアゴ紐の代りうまくなんない。こっちの方くるっと曲げて、ふっつけてしまんなね。ていうわけで、輪っかにしてしまった。右から左までつけて、今の土瓶みたいに上の方輪っかにしたら、アゴからはずんねくてええあんばいだ。
 さぁ、いよいよもって戦さ始まった。ところが雨霰と飛んでくる矢が、そいっちゃ当ってカーンカーンてはねかえった。んだから誰言うとなく矢がカーンカーンてはねかえったもんだから、〈ヤカン〉ていうて、現在のヤカンの由来になったわけだど。どんぴんからりん、すっからりん。
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