97 稲二把村

 むかしとんとんあったずま。
 庄内の方に、とってもネッピ(けちんぼ)なすばらしい旦那衆いだんだけど。ところが若衆何人も使う。人使いはうんと荒いげんども、さぁいざ銭勘定すっどきになっど、あの所為(せい)だ、この所為だ、ありゃうまくない、こりゃさっぴきだて言うて、決めた銭、決して払わねがったんだど。んでも仕方なくて…。んだから同じ人は二年とそこさ行ぐ人はいねがったんだど。
 ところが、ほこさ屈強な若い者が、体格のよさそうな若者が、気立てのよさそうな若者が来て、ニコニコしながら、
「旦那さま、旦那さま、今年おれば使ってもらわんねべか」
「ああ、ええ、ええ。何ぼで稼ぐ」
「なんぼでええがんべっす」
「今まで一年間二両だったげんど、お前は体格ええから、二両五分でなんた」
「旦那さま、ほがな、おれは二両五分だ。三両だていう銭など一文もいらね」
「んでは何だ」
「おれさ一背負いだけの稲呉(け)でけらっしゃい。一背負い…」
 考えてみたれば、二文か三文だ。なんぼ背負ったて、そのぐらいしか背負わんね。
「うん、ほうか、ほういう風にして稼いでみっか」
「はい、どうか手伝わせてけらっしゃい」
 ところが、その若衆は稼ぐは稼ぐ。ばんばん稼ぐ。旦那喜んで、ほしていよいよ金払う時期になったが、秋の取仕舞いも、いまつうとで終らんとして、稲こきも終らんとしたとき、
「んだらば、旦那はん、一背負いの稲もらって行くべな」
「ほうか、ええ、背負ってみろ」
 ところが、すばらしい。いつなったか分らねげんど、荷縄敷いて、はいっちゃピタピタ、ピタピタ稲ばつくねて、そしておぼねた。ところが田の稲一把も残らず、すぱっとおぼねらっでしまった。ほしたけぁ、そいっちゃ背中当てて、むっくりと背負って起きた。
「ほんでは旦那はん、もらって行きあす」
 みな背負わっでしまった。旦那、
「いや、なんぼか置いて行って呉ろ」
 て、ぶら下って、そくっと稲二把抜けだんだど。ほして、今でもそこの部落ば〈稲二把村〉ていう。ほしてその背負ったのが、見るに見かねて出はった秋田の三吉つぁまだけど。
 んだから、ほだな馬鹿欲は決して張らんねもんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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