96 申し子むかし

 むかしとんとんあったけずま。
 あるどこさ、うんと働くええ若衆いだんだけど。ところがその人が丁度結婚適齢期になったわけだ。ほんでどなたも興味あるんだけども、まずおれ、何(なん)た人と一緒になっかていうわけで、占師さ行ってみたれば、パッパッ算木いじくっていたけぁ、
「はぁ、お前は今夜生れる人と一緒になる」
 こういう風に言ったんだど。
「なんだ、今夜生れる人と一緒になるなて、まず、なんぼなんでも、今から十六七年待てんなね。んだれば殺してしまえば、はいつと一緒になることないべ」
 と、こういうわけで、生まっだ赤坊(んぼこ)を戸障子のサマから槍で突っついて殺したんだどはぁ。ほだえしているうち、幾星霜の歳月が流っだ。ほうしたれば殿さまバタバタ、バタバタ腹痛くて苦しんだ。なんぼ医者あげても、その腹痛治んね。なんた薬飲ませても分んね。ほして殿さまでお触れ出した。
「御褒美、何でも呉れっから、腹痛だけ治して呉(け)ろ」
 こういう風に言うたれば、ほの家には薬草七種類、高山植物七種類、とろりとろりと、二斗の水を一合五勺に煮つめて、はいつ飲むんだら、なんた腹痛でも止まるていう伝家の薬あったんだど。ほしてはいつ持って殿さまさ持って行って進ぜだれば、胸の溜飲が落ちるように、ググー、ググーていうたけぁ、たちまち腹痛治ったんだど。
 ほうして安堵した殿さまは、
「何でもお前の望みのもの言うてみろ。何でもとらす」
 ここぞとばり、息子は、
「んだらば、おれ、殿さまの腰元欲しい」
「ほうか、武士に二言はない。何でも上げるて言うたんだから、仕方ない。どれでもええな、上げっから」
 て言うて、正装してずうっとその男の前通らせだらば、三番目とか通った娘は非常に器量のええし、気立てもよさそうだ。
「あの娘欲しい」
「よし、宿さがりして、お前さ嫁づけから仲よく暮らせよ」
 て、殿さま、ほの娘ば呉けよこしたんだど。ほして三々九度の盃もして、いよいよ床入りの段になって休んだ。
 次の日、
「姉、姉、むかさりも大変だった。おらえさ来て、いろいろ気疲れもしたべし、疲っだべから、お湯さ入ろ」
 て言うたらば、「入(は)いね」て言うんだど。
「なして。お湯わかしていたから入ろ」
「入いねず、おら」
「なしてだ」
「実はよ、おれ、生まっだ晩、何者かに槍で背中突つがって、槍傷背中にあんのよ」
 そのとき、その息子がドキンとしたんだど。やっぱり縁ていうものは組(く)まっでで、なぜしても一緒になるものは一緒になるもんだけど。縁は異なものて、むかしから言うたもんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
(「子供の寿命」152系)
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