93 狐と庄屋楢下の宿の元屋敷というどこの一角に狐壇ていう地名のところが、今も残っているんだげんども、そこには仲々いたずらな狐がいっぱいいた。ほして人間とはごく、そこの狐が親しかったわけだ。狐の御所ていうて、おフカシを上げたり何かして、特に人間と親(つか)しいがったげんども、その中に何て言うか少し不貞腐れな狐いて、ちょいちょい馬鹿にするがった。ぼやっとした奴はみな馬鹿にされっかった。ときの庄屋さんが、 「にさだ、ぼやぼやしてっから狐から馬鹿にされる、畜生に化かにされるなんて、とんでもない話だ」 こういう風に常に言うていっかった。 て、ある日、春先のぽかぽか日当りのええ日、ちょうど百姓、耕(うな)い拵(こしゃ)えの代掻きの頃、ワラジ履きでぽかぽか、上山さ用達しに出かけた。ところが本庄街道行くより、牧野道を通って上山さ行った方がずうっと近いもんだから、歩いての場合は全部こっちの方通ったらしい。ところがちょうど狐壇の下の新田というところまで行ったら、二匹の狐が薮がらからちょろちょろと出はって来た。 「はて、この畜生だ。こりゃ、天(てん)の昼間から化けるんであんまいか」 庄屋さん見っだれば、二三回ひっくりかえったけぁ、ええ女とええ男に化けた。 「ははぁ、おれば馬鹿にするつもりだな。ようし、糞、おれは馬鹿にさっでいらんね。ぼやぼやしていらんね」 こういうわけで、 「んだら、おれ、狐、馬鹿にして呉らんなね」 こういう気持で、庄屋さんがその狐の後、コタコタ、コタコタ追っかけで行った。して行ぐど、ずうっと行って、カサカサ稲荷さまあたりまで行った。そしたらそこに稲場小屋みたいなあった。 「よしよし、稲場小屋あるな」 二匹はそこの稲場小屋の中さ、チョロチョロと入って行った。ほしたけぁ蓆(むしろ)さらっと下げてしまってはぁ、中見えないでしまった。 「ははぁ、ここに孔あっぞ、ようし、この孔から覗(のぞ)いて呉んなね」 こういうわけで庄屋さんが、その孔、こう一生懸命、そのモサモサっていうの片付けて、孔さ眼(まなぐ)やった。ほしたればその孔だんだん小っちゃくなって行く。 「こん畜生、孔ちっちゃこくしたって、わかるもんでないぞ」 ていうわけで、一生懸命ほの孔大きくして中見っど思ったれば、バイタ(板)で引っぱだかれたような衝撃、ダァーッと体中さ感じた。ほしてハッと気付いてみたれば、ちょうどほこに稼いでいた人だ、代(しろ)掻(か)きしていて、十時半頃、馬休ませて、みんな一服しった。ところがほの庄屋さま、眼(まなぐ)の色キョロキョロさせだけぁ、どさ行くべと思ったれば、馬休ませっだどこの尻(けつ)さ、ピターッとふっ付いっだけぁ、尻尾(しりぽえ)ば上さ一生懸命上げて、馬の尾の毛ば上さあげっだけぁ、一生懸命馬の尻のぞき始めた。馬、こちょびたいもんだから、尻の孔だんだんちっちゃこくした。庄屋さん何と、つぼめたて見ねでいらんねていうわけで、一生懸命そいつはだけて見たんだど。んだもんだから、馬、こちよびたくて仕様ないから、後足でダーッと庄屋さんば、ふごぐたんだけど。したけぁ、アハハ、アハハて、 「いつから庄屋さん、伯楽になったんだすぁ」 なて、馬鹿にさっでいたけど。したれば結局、庄屋さんも狐に馬鹿にさっでいだなだけど。どんぴんからりん、すっからりん。 (尻のぞき270) |
(尻のぞき270) |
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