8 すずしい風がくされた

 むかしはな、寺の和尚(おしょう)さんと小僧っ子が、よく勝負したもんだ。
 和尚さんは冬のさむい北風を、うまくつかってやるべとて、大きなカメを買ってきて、山から吹きおろしてくる北風を、
   どんどろ吹いてこい
   がたびし吹いてこい
 というて、みんなカメの中につめこんでしまったど。どうすんのかと思ってみてたら、そいつを納屋に、奥ふかく入れておいたと。
 冬がすぎ、春がきて、春がすぎ夏がきたころ、うだるようなあつい日に、お経をよんでかえった和尚さん、
「ああ、おれはやっぱり頭がいい、すずしい風でウチワもいらない」
 というて、一人でこっそりカメのふたを少しあけては、着物をはだけて北風を入れた。
「どうれ、ほんじゃらば、次の仕事に行くか」
 和尚さんを見送った小僧は、
「おかしいな、こんなにあつい日に、すずしい顔してるなんて、和尚さんばりうまいことしてるんだべ」
 小僧が和尚さんのへやさ行ったらば、汗かいてるカメがある。そいつに手を出すと、ひやりっこ、ひやりっこする。
「ははぁ、こいつだな。和尚さん一人、うまいことしてる」
 と思って、小僧がちょぺっとフタに手ふれると、フタはするするのするっとすべって、中からすうーっと、すずしい風がでてきたから、たまんない。小僧は和尚さんの衣(ころも)を腹の上にかけて、ぐっくりねこんでしまったもんだ。そのうちに、鼻ちょうが一つふくれて、パチン。またふくれてパチン。また小さくふくれてパチン…。
 いいきもちでねむってるうちに、腹にかけて衣もずりおちて、へそがまる出しになってしまったところに、カメから出たふぶきの晩の北風が、カメの一ばんそこから出てきて、へそに吹いたもんだ。おもわず「ハクション、ハクション」とやったもんだで、自分のくしゃみにおったまげて、目さましたと。
「ありゃりゃ、こんじゃ、和尚さんにごしゃがれる、なんとしたもんだか」
 と、いそいでフタをしたが、そのときには、カメの中の北風はからんからんに出てしまって、中はからっぽだったもんだど。こまった小僧はうなだれて、お釈迦さまのある本堂に行ったら、お釈迦さまは、「へ、へ、へ、へ」と笑うもんだで、
「こいつぁ、カメの中に屁を入れておけていうんだな」
 と、小僧はカメに尻かけて
   ぷーとやったら ぷー
   ぺーとやったら ぺー
   ぽーとやったら ぽー
 さまざまな屁をカメの中につめて、いそいでフタをしたもんだど。
 そのうちに和尚さんが帰ってきた。
「どれ、今日もすずしい風でゆっくりするかな、小僧、町までちょっと使いに行ってこい」
 小僧をおっぱらうと、奥のへやでそっとカメのフタを少しずらしたど。そうしたら、どうしたことだ。すずしい風のかわりに、今日は黄色い風が吹いてくる。おかしいもんだと思って、鼻を近づけると、ぷんぷん、ぷんぷんにおってくるのは、屁のにおいだったど。ぶったまげた和尚さん、
「こりゃ、おかしい。きのうまですずしい風だったに、このあつさで北風までくさってしまったか。なるほどこのあつさでは、たべものも悪くなる。冬からカメに入れっだもんだから、くさってしまったんだべな」
 汗ぼたぼたたらしながら、和尚さんはウチワでぱたぱたしてたもんだそうな。
 とーびんさんすけ、かっぱのへ。
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