5 馬鹿聟話昔あったけど。或所さな、「タラの木頭(ぼんぼ)」て、賎めらってる少し智恵の足りない男いでな。これぁ嫁(あね) こもらたけど。嫁この方は聟ど違て勝れ者で、聟どこば何が と庇てくってな。ちょうど三日目(みづれ)で二人連(じんば)で里帰りしたけど。嫁まだ聟どさ、実家では此頃(このじゅ) 家普請したばりで、行たら多分お父さまだお座敷 の床柱ば自慢しっかしんなえ、誰が来ても さでど、実家(おさど)さ来てみだれば、初聟だじょんで持でで早速奥さ通さったど。ほして挨拶もそごそごにはお父さの床自慢始またけど。聟まだ柱ば撫でまわしで嫁 この言た通り節穴見つけたじょん。すかさず教へらった通り、「短冊掛げらっせ」 て言たべちゃ。ほしたらよぐ気がつぐ、「なんたら利口な聟だごど」とで、舅さま 上機嫌だけど。 ほの後で「この間 (じゅ) 、新し馬飼(たて) たどこださげ、見てくっちゃ」どて自慢そうにその馬こば屋外(おにや) さひき出して来たけど。「牝馬(ぞやく) だども臀部(しりご) も丈夫だどこみっと、きっと荷駄つけも良えがしんね」て自慢しっけど。 馬ごとしては褒めらって何と思たが、尻尾上げて馬糞(だんくそ) こげだごとあて、暫くして正月来たじょん。まだ二人連(じんば)で初正月礼に行ぐごと なたけど。何しろ初めでだもんださげ、向うさ行たら何た事言て挨拶したら良え もんだが工面余したけど。 本家の爺さまなら何でも 橋の上まで来っど、爺さまちょうど下前の淀の所で雑魚さらいしったじょん。 聟まだそれ見つけで喜ごでな。大声張り上げて、「正月礼じゅあ何た事言て行ぐも んだ」てきいだべ。んでも川の瀬の音が強(きつ)いなさ、爺さま年老(としよ) て少しきつかず(聾)だもんださげて、何聞がったがよっくど判んなえがったべちゃな。 てっきり「何ぼ獲たどごだ」て聞がったかど思いごんでは、「朝から今までかが て、こればりよ」て、腰ささげた亀篭(かっこべ)こを傾(かた) げて中の雑魚ば見へっとこだけど。 聟あごとしては、成る程、正月礼じゅあ亀篭さげて行がなんなえものがじゅなで、 家さ引返し用意整えて出直したけど。 いよいよ実家(さど)さ着いで、拝頭(はいつと) (御辞儀)して戸口入って行ぐや、「よぐ来て呉っ た」どて、家中出はて来て、愛想(ええそ) しっちょん。そのたんび上台(どんぎ)の所で、 「朝から今 までかがて、こればりよ」どて、腰ささげた亀篭こ傾げっけど。家の人達これ見 で、「聟さん何(なえ)だどこだべ。初聟ださげだべが」て、不思議がたべや。ほんでも余 り図々面(ずずづら) してんなで、これぁ向うの風習 (しきたり) だもんだべ。所変ればて、随分と面白(おもへ) ご とする所(どこ) もあるもんだちゅなで、ほん時ぁ何事もなぐ初聟ぁ接待(あげも)さって帰えさっ たけど。 とごろで後えなって台風吹いで嫁の実家でも大分いだみつけらったごとあたど。 「屋敷の外郭(けえど) さ植わった梨の大樹が倒さったさげ、後始末手伝い来て呉ろ」て、 便り来たじょん。んでや何をさで置いでも動転(どで) 見舞に行がなんなえて、出がげる ごとしたど。 こう言う時は何た事言て行けば良えが、これまだ本家の爺さまさ聞いだべちゃ な。ほしたら先ず倒った梨の樹ば見で、「これだけの大樹 (たえぼく) めったに見られるもんで なえ、惜 (いたま) しいごとしあんしたなや、この樹の太い所で臼ば掘って、細めの所では 打杵作 (こさえ) たら良んなぇべが」て、そう言えて教へらったけど。 一生懸命なて覚えて行て、先方さ着ぐなり、その通り述べだべ。ほしたら、「ん だ勘定だなや、良ぇ工面借りだ、そうしんべ」て言うて、大変褒めらったけど。 ほげだ事あた後で、姑婆さまが中風で倒ったけど。こん時 (づき) は余りにわがな知ら せで、動転して駆げづけだもんださげて、挨拶の言葉ば聞いで来る暇ながったふ うだ。 ほれでもこの前に、 こん時ばりぁ、聟さんの木頭の本性出してしまて、皆に呆返 あぎれかえ らってしまた けど。 どんぺからんこ なえけど。 |
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