5 お田の神さまの餅

 昔あったけど。二月十六日にはな、冬うぢ護て下(くだ)さてた山の神さまと交代に、今度お田の神さま出雲から見えられんなだど。どうしても長旅おえなさんなださげ、お着きは晩方なる。夜ンま、餅搗いでお迎えすっとこだ。汚(よご)んなえな良えなだどで、何も付けない搗きたての白い餅ば一升桝にさらっと盛って神棚(だいじんぐさま)さ供るでや。
 田の神さま、せっかく遠い所お越しなても、一服なさる暇もなえくらえだは。百姓達も堆肥運びはソリださげ、雪のあるうぢさなんなえべし、んだがど思うど、残た雪ば割ってまでも種おろしさかがらなんなえ。それさ春農がら苗びらき、田植ど農仕事追っかけでくる。田の神さま、それば見守(まぶ)て呉んねんねなで大忙しだ。一息つくひまさえなえんだべ。
 九月二十九日には、いよいよ刈り上げで、後は秋入れすませば、百姓達は山仕事さ移る。そごでお田の神さまも十月十六日には山の神さまと交代なさて、出雲さ立って行かれるていう順序だ。
 そん時は朝立ちなさっから、出立餅(でだちもち)でお送り申すどごだ。朝ま早ぐ餅搗いで振舞て上げっちゅんだな。長い道中で、腹空かさなえようにど、お出でなた時と違て、一升桝さ、隙間なくでっしり餅盛て供(あ)げるもんだ。箸使て餅ば桝のすまこまで押しこんで一杯にしてな。
 何しろ長えごど、ご苦労かけだおんな。やがて雪も来んだろが、それが消えかがる時分にゃまだ来て頂(いただ)ぐごどなる。それまでの、しばしのお別れだ。どうが餅たんと召上て行て下さいよ― て、お田の神さまば送んなだど。
 餅の他にも、おかげさまで、こんげ立派なお米が穫れたて言うなで、稲柱聯(いなかず)もこさえで土産にしてもらうなだど。糯ど粳と別々に二連にしてな。これ、神棚さ供えでおいで、小正月の梨団子こさえる時に、ほの稲柱聯のもどのみごさ、一にぎりの餅くっつける。
 お田の神を迎える二月十六日の朝餅には、こっからしるしだけでも穂を抜いで、少しばり混ぜで搗き、また種下ろしの時も種籾さ混ぜで上作祈るもんだ。
 お田の神さまには、おかげで作ば良ぐしてもらたなで、何がと持だせっとこだろう。
 どんぺからんこ なえけどよ。

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