15 蕨(わらび)に恩ある蛇の先祖昔あったけど。春ぁきて、雪崩(なで)つき傾斜(ひら)など雪消え早く、もう野火つけするばりになたけど。蛇も土ン中がら這い出して来て、「ああ春だ、良え気持だ」て、うがれでだど。枯草の上さドサッと長ぐなて日向ぼっこしたどごだど。 冬眠が長がったさげて、久しぶりてみるお天道さまが、まぶしがったべちゃ。すっかり気持良ぐなてきて、独りでコックリねぶかげ出てくっけど。傍ば蟻こ這て行ごうが、耳もとば蜂ぁブンブン飛ぼうが、かまたもんでなえ。たとえ体さ触るものあたて感づがなえがったべ。いつがのこめえ、すっかり眠りこげでしまたけど。 ほのうち、土の下がら千萱(ちがや)の芽が出はてきてな、蛇の体ばだんだん上の方ちゃ持上げでるうぢに、尖った芽の先っぽが胴腹ば打通(ぶど)してしまたけど。大変なごどえなたども、蛇ごとしては気付がなえで眠り続けったふうだちゃや。やっと目がさめだ時にはもう遅えんだ。すっかり新し千萱に串刺しなてだけど。 ほれ外そうとすっけんども、動げば、刺さた千萱ば心棒にして、ぐるぐる体が廻るばり、ながなが抜げなえで困り果でだけど。誰が来て助けで呉んなえがな。ちょっとでええさげ、手かしてもらいだいど思うども、蛇が相手じゃ誰も気味わるがて寄りつこうともしなえけど。ほしたら、ちょうどそばの土から、もこっと頭このぞかへで、蕨が声かげて呉ったけど。 「おれぁそんま工面貸してやっさげ、あわてなえで静がにして待ってろ」 てだど。「少し時間かがても、さわがなえで、じっとしてろよ」て、念おすじょん。でも、ただじっとしてるじゅあ、心細(たのぼそ)い話だ。なじが早く助けて呉んなえが、このままだと死んでしまうばりだてわめぐなだけど。 「待で待で、泣だて、叫だて、いまさらどうなろばや。黙って人の言うごどきいで我慢してろ、時のたつな待つこんだ」て、蛇どごなだめで力つけてくれんなだけど。ほしてるうち、だんだん下がら蕨おがて、鎌首持上げてくる。こ半日も経ったか、とうどう蛇の胴体ば千萱からすっぽり外してくったけど。蕨のおがりかだが千萱ば追越したんだ。これで蛇もやっと命ば拾たというもんだ。 蛇ごどしては、何事(なにごと)あたたて、この蕨の恩ば忘れらんなえてだど。今でも蕨さ手向(てむげ)するよな真似はほってもしなえなだど。んださげて蛇ば嫌えだていう人いだら、まず蕨一本手折って、ほれば頭髪さかんざしにさすか、帯さでもはさでもええさげ、体さつけで山さ入っと、蛇などほっても、おっかなぐなえど。 長虫や長虫 千萱峠のかぎ蕨の恩ば忘れんな この呪文、三度唱えっど、蝮(くそへび)だて、まっと毒のうげえ(多い)からす蛇だて、何た蛇だておっかなぐなえ。向うがら逃げて姿消すていうたもんだ。 どんぺからんこ なえけど。 |
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