9 大昔の根花粉

 昔あったけど。昔にゃな、蕨(わらび)のとうの立ったなば、「ほうだる」どてな。土ン中這ってる根っこば堀り上げで、ほれよっくど洗てがら搗きつぶして沈澱(いづかせ)っと、きれいな澱粉(こな)出来だもんだ。
 根花粉どて、とっても高え値段で売っだし、この粉で「かい餅」こさえで食うど、ほれごそ美味くて、ほっぺた抜げるよだんださげ。一時(いっとき)にゃ、根花も相場立たくらえで、とても金になたもんだ。田作るよりましだどで、小百姓たちぁ、我も我もど根花堀りさかがた時あんださげな。
 ほの根花も、ずっとの大昔にゃな、土ン中の根っこさ着いだもんでなくて、元は地面から表の方ちゃ、つまりほうだるの枝の先っぽさ花咲がへで実もたもんだど。ほうすれば、手も汚さなえで摘めっさげ、採んのにゃ随分と楽しんだにちげぇなえ。
 とごろが、人間にゃ無精たがりがいでな、ほうだるの木の下さ横なてふんぞり返ったまま、手も使わなえで、パクパクついばんで根花食う奴(な)出はたけど。よぐよぐへやみたくたごとするもんで、神さま、これ見つけで、とってもごしゃえだど。
 ごげたごど平気でさせでだんじゃ、人間のこれがらの為になんなえてだど。ほごで、みせしめに、地表さみのた根花ば、みんな土ン中さ潜らへで、根っこさ隠してしまわったなだど。
 今は根花採っどなっど、大変な手間かげっちゅんだ。まず山さ行て、ほうだるの根っこ掘って来て、ほれば川さ運で、ねっづく水洗いする。ほうやって泥土落したなば、根舟ていう臼で搗ぎ砕いて、ほれいづかせっと固まっさげ、水がら上げて、天日で乾がして、やっと根花えなんなださげてな。二重三重の手数かがるごとじゅんだ。
 神さまの諭(さとし)だったさげ、仕様ながったろ。何だて不精なごどはさんねもんだな。
 どんぺからんこ なえけど。

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