6 大根の逆さおろし

 昔あったけど。或所(あっど)さ、男の兄弟二人持た家あたけど。兄まだ少し頭が甘こえもんで、年頃なら、弟の方が先に決まて、嫁(あね)こもらうごどなたけど。
 今日ぁその祝言だじゅ日だど。兄ぁごとしては、弟に先きならっても何じゅごどもなぐ、機嫌よぐ家の事ばあれこれど、こまめに手伝てだけど。
 秣(うまのもの)やったり、何度も何度も土間(にわ)掃除など出がして家さ上て来たべ。炊事場(ながし)の方ちゃも、たんと手伝人(てつでと)来て、にぎやがしったもんださげ、そさ加(かざ)ったえがったべちゃ。
「何がおれぁ手伝うごどなえがや」
どて、顔出したけど。
 炊事場のさいはい振ってだ本家の婆さまも、こんげして不貞(ふて)もしなえで、よぐ働ぐどご見っど可哀(いどしぐ)そうなたべ。炊事場さ男人たちに手出されっちゅあ邪魔気だもんだども、大根下ろしなら、馬鹿でもチョンでも出来る仕事だ。これ預げでおげば、場ふたぎにもなるめえど思たべ。兄もまだ人並に扱わったな面白(おもへ)くては、一所懸命なたけど。
 でもな、大根のたがぎようおかしい。頭の方から下ろし金さ当でてすっていだようだけど。他(はだ)の人、ほさ気付いて、「兄ンさ、大根、さがさまんなえがや」て言(ゆ)た者いたじょん。ほしたば、兄ンさ言うけど。
「おれぁ家じゅあ、何もかもみなかっちゃまな家だ」てだど。
 なんぼ出来ぁ甘こえたて、長男は長男、預けるものは預げなければ、なや。兄ば後回しさっだ、あてこすり言ったどごだべ。何もかも合点しでだなだな。
 大根下ろしは、尻尾の方から摺るど、辛く出来るがらて、師匠する者いっがと思うど、北向きに坐てて下ろすど、辛えなの、意地のわるい奴(ひと)の摺ったなだば辛えなどて、話ぁはずんだど。
 どんべからんこ なえけど。

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