5 小豆は娘に煮らせろ昔あったけど。或時(あっづき)、嫁こ小豆煮ば言いづげらったけど。囲炉裏さ小豆鍋かげで、薪焚(た)いだべちゃ。嫁こごとしては、他にもしねんね仕事えっぺあっさげ、どうしても囲炉裏さつぎっきり坐てるわけにゃいがなえがったべ。んだがて、火ば切らしてしまうど、小豆じゅもんは、あんばえごわえどごあって、一ど煮そびらがすど、ながなが上手にゃ煮えなえもんだ。囲炉裏がら少しも気抜ぐごど出来なえ。どうしても、があっと一ぺんにさっ焚(く)べだぐなるじゅもんだ。 んださげ、鍋ン中、威勢(いせい)よぐたぎって、豆まだぐるぐる舞いするし、頬被(ほっかぶ)りが解げでふ切って、散々に砕けてしまう。粒割れで豆あ殻になっと、どうしてもごう減って美味ぐなえもんだ。沸き上がた豆屑でば、鍋のふたさまぶれでしまて、始末おえなぐなる。ほれさ崩ったわりにゃ芯までやっこくならなえしな。出来上りの品のなえごとてあたもんでなえ。 いつが、こん度(だ)は嫁こでなく、家の娘に小豆煮命じだど。良え面しなえがったども、言いづけらったもんで、やんだやんだ火焚(たき)きしったべ。自分(わあ)好ぎだごどしながら、囲炉裏端はなんなえで、火は切らさなえ程度にやわらがく焚しったべちゃ。 長えごとかかって、こげらがすなばり気つけで。煮干りそうになっと、釜こから湯足し足し、コトコトど煮ったべ。ほしたら小豆ぁ砕げなえで、一粒一粒ふっくらと脹(ふぐ)って煮上がたけど。 ほごさ大きい婆さま面(つら)出して、「ぢょこ、小豆煮えだ、んなえが」 て言うけど。ほして鍋のふたさ小豆粒のせて、豆粒拾て親指と薬指さはさんで潰して煮えあんばいみったけや、とっても上手に煮えだどて誉めでな。 「小豆ぁ嫁こに煮させなえで、娘に煮させるもんだな」つけど。ほれ聞きつげだ中の婆さま、まだ「こんど時(づき)、おれぁ上手え煮でめへる」て、いばっけど。 さて、ほの口きいだ姑嬶(かが)さまの番がきたど。若え者達(もんだ)にゃ負けでらんなえ、誰だよりも早ぐ上手に煮上げて見へんべじゅ気だったべ。だがすか火焚いだじょん。一番やっちゃなぐ出がしたけど。 小豆煮にかげでゃ、姑も嫁にゃかなわなぇがったじゅし、何て言たて、娘こあ一番だて言わったけど。 どんぺからんこ なえけど。 |
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